自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)と注意欠如多動性障害(AD/HD)・限局性学習症(LD)の関連について

自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)と注意欠如多動性障害(AD/HD)の関連は?

 注意欠如多動性障害(以下、AD/HD)は独立した障害としてDSMやICDでも定義されており、衝動性・多動性・不注意が典型的な特徴とされています。同時に、自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)との併存率(両方の障害が重なっている率)もおおよそ20~30%あるとされていますが、実際はどうなのでしょうか?これまで発表された文献をみると、実際の診療場面での併存率は30~80%を示しています。また、自閉スペクトラム症のこだわり、感覚過敏などが就学前に減少するとAD/HDと診断されることが実際にあるようです。

 当院では「自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)が疑われる方にはAD/HDの特性を併せ持つ方が多い」と考えております。これまでAD/HDの特徴がみられることで自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)の特徴が見落とされるケースがありました。逆のケースも見受けられ、自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)が診断されていてもAD/HDの特徴が見落とされていることがあります。

 AD/HDの衝動性・多動性・不注意の典型的な特徴がみられなくても、お話を詳しく伺うとAD/HDの特徴がみられる方がいます。子どもの場合、何か興味があると出し抜けに発言する、興味があると指示を待てずに実行しようとする等の目立ったエピソードがみられることがあります。しかし、大人の場合、こうした行動は適応能力の獲得や衝動性のコントロール、年齢による多動性の減少によって軽減されている方が多いです。

 実際にはどう表れているのでしょうか。自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)の特徴とAD/HDの特徴を併せ持っている方の一例をあげてみます。自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)に特徴的な新奇場面への不安や緊張が表面上みられなくても、実は意識しにくいレベルで新奇場面への不安や緊張を感じていることがあります。こうして過緊張状態に陥ることで、AD/HDの特徴である衝動性がコントロールを失って出現してしまう、というケースもあります。

自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)の特徴とAD/HDの特徴の違いは?

 注意集中が苦手なAD/HDと注意の切り替えが苦手な自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)では、起きている現象は似ていても背景にある要因に違いがあります。

(例)声をかけても気がつかない

 夢中になって遊んでいる、一生懸命仕事に取り組んでいる時に、「○○へ行こうよ!」と声を掛けても気がつかない場合

 AD/HDの不注意で聞きそびれているように思える場合でも、実は自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)の特性である注意の切り替え困難が背景に存在する場合があります。自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)の場合、声を掛けられて行こうとしても、今注意を払って行っている作業を中断できないのです。また、手作業への過集中や作業完了へのこだわりが出現している場合もありますし、突然の発話に対して聞きそびれてしまうことも考えられます。自分が話しかけられているという認識を持っていないこともあります。

自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)と限局性学習症(LD)の関連は?

 限局性学習症(以下、LD)は「読み・書き・計算」「聞く・話す・推論する(見通しを立てる)」についてうまくできない、主に学習する際に障害となる特性を指します。特に全体の知的能力に問題がなくても、どれか一部の学習が極端にできない場合を指します。
たとえば「黒板は読めるのに、書き写せない」となると「読み」の障害はなくても「書き」の障害があると考えます。こうした障害特性があると、低学年の頃は学習に支障があまりなくても、学年が上がって学習内容が複雑になると、ついていけなくなることが考えられます。一生懸命やってもできないし、本人も理由がよくわからずに劣等感だけが強まってしまうなどが起きやすいです。さらに叱責などが加わると、自信をなくしてしまい、学習や学校への恐怖感から不登校につながることも考えられます。

 しかし、LDはできなさという現象を指した概念です。その背景にある要因は様々で、特に自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)に起因するものも多く、AD/HDの特徴と関連する場合もあると考えられます。

(例1) 本を読むことが苦手という場合

文字が読めないという場合もあれば、文字自体は認識できても文字が集まって意味を成すように読み取ることができない場合もあります。 背景に自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)の特性があることもあります。本の読めなさが本の白地に黒文字のコントラストがきつくて読めない視覚過敏に基づく場合もあります。どうしても興味が持てなくて読むことができない場合もあるでしょう。こうしたケースでは単に読みたくないという意思の問題として扱われてしまい、誤解を招くこともあります。 もちろん、AD/HD要素が関連する場合もあります。たとえば、文字の認識が苦手な上、集中力が持たない場合は少し読んだだけでも非常に疲れてしまい、読んだ内容が頭に入らないでしょう。逆に集中困難や落ち着きのなさが表立っていると読みの困難が見落とされることがあります。

 周囲がうるさくて集中できない場合は、AD/HDによる集中困難のように思われやすいですが、自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)による聴覚過敏によって余計な情報が耳から入って妨害されていると考えられます。

(例2) 書き取りができない場合

①同時処理が困難な場合(自閉スペクトラム症的)
たとえば、聞きながら書く場合
「聞く」「書く」を同時進行させる必要がありますが、これが苦手な方がみえます。
分割的注意が行えないのです。

②集中困難による短期記憶の保持が困難な場合(AD/HD的)
たとえば、黒板を見てノートに書き写す場合
黒板を「見て」「覚えておく」その後で「書く」のですが、「覚えておく」ことが難しいため、書こうとすると何を見たか忘れてしまう方がみえます。
※LDは要因に重きを置かず、生じている困難そのものを示しています。

 読み・書き自体ができないという障害が存在することが考えられます。前述のように文字が読めない場合もありますし、日本語の場合では漢字が書けないこともあります。ただし、書けなさにも理由があって、たとえば、①指先作業の不器用さ ②漢字の形状が認識できない等が考えられます。

当院の考え方

 自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)とAD/HD、LDの特徴が重なっている場合も多くみられ、実際には明確な境界線が存在しないのかもしれません。3つの障害のうち、どれか1つに当てはまるとしたら、他の2つも存在する可能性があります。当院ではこの視点に基づき、治療や支援を行っております。重ね着症候群は、これらの障害に抑うつなどの精神的な症状が重なることを指します)

当院の治療方針

 これまでのご本人の困難さ、努力や苦労は相当なものがあったと推察いたします。皆と同じを求められて周囲からの叱責を受け、自分自身で感じるできなさや劣等感に幾度となく直面してこられているでしょう。自信を失い、自分に合った学習方法や行動の獲得が困難になっている方も多いでしょう。たとえば、AD/HDのある方は、待つことができなくなっていき、社会的な場面で我慢できず、嫌いなことが増える悪循環に陥ることがあります。

 当院では、こうした個々の特性を詳細に検討し、治療や支援を行うことを大切にしています。患者さんが自分の人生を主体的に生きているという実感が持てるような生活の質の向上を切に願い、どうしたらよいかを一緒に考えさせていただきます。

 まず、大事なのは、同じ診断名であっても一人ひとりが持っている特性は違うということです。ご本人の直面している困難を把握し、個別の対応を行う必要があります。ご本人の得意・苦手な点について、心理テスト等を通じて客観的に把握し、学習方法や対処方法を共に考えます。感覚の過敏さや集中力の維持困難などの問題には投薬が役立つ場合もあります。また、これまで頑張ってきたご本人が、今後も何とかやっていけるように環境調整を行うことも大事です。同時に、待つと報酬があると期待できるようにする、できるところから少しずつ取り組めるようにするといった行動修正のための周囲からの継続的な働きかけも必要と考えております。

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